MBO(3/3)

  3つ目の投資ファンド側は、このMBO案件に投資すべきか?と言う事ですが、この投資ファンドの目的が何処にあるのかによります。投資ファンドがM&Aに参加する目的を大きく分けると2つに分類できます。1つ目は、グリーンメーラー的な買収⇒解体売却の目的です。2つ目は、投資先の会社に経営陣などを派遣し、経営を再建し、株価の上昇によるキャピタルゲイン(または、再上場によるキャピタルゲイン)を得る目的です。MBOの場合は、基本的に後者の考え方に基づき、企業再生が目的の軸になります。今回の案件は、MBO対象会社の純資産が低く、PBR(株価純資産倍率)が1を下回っていると言う会社が対象でしたので、基本的に解体価値は低く後者を追及するしか手はなかったようです。そこで投資会社側が取ろうとした手段は、該当投資会社の出資に対して約4、5倍の借入金を行い大幅なレバレッジをかける事による収益性の向上を図ると言う手法でした。もちろんこれにはリスクが伴いますが、基本的にそのリスクを全面的に負うのはあくまでも会社側であり、ファンド側は出資額までが最大リスクとなります。ですので、多額の借入金によるレバレッジの増大によって実現される収益性の拡大というフレームワークを該当会社側が受け入れた場合には、投資会社としても非常にメリットのある話となる可能性があります。結果的に、高レバレッジをかけると言うフレームワークによるMBOと言う事になりました。


  4つ目には既存の株主にはどのような影響があるかと言う点です。ここには非常に重要な問題があります。情報の非対称性の問題です。企業を取り巻くステークホルダーは様々です。例えば、従業員、顧客、経営者、株主、サプライヤー、クイーン、地域社会などです。これをもう少し詳しく見ると、株主の中には、経営者の同族などもいるでしょう。しかし、外国人投資家や、個人投資家などもいます。前者と後者の一番大きな違いは情報量です。経営者やその周辺の人々は多くのインサイダー情報を持っています。一方、個人投資家などは公開情報だけが頼りです。これの何が問題なのでしょうか?例えば、こういうケースを考えて下さい。ここ数年の業績が低迷気味の上場企業D社があったとします。しかし、実は近い将来に収益性の高い新規事業に乗り出す計画があり、この成功可能性も高かったと仮定します。そして、仮にこの情報を持っているのは、一部の経営者やその周辺だけだったとします。その場合に、上場しているとそこで得た収益は配当と言う形で株主に還元しなければいけませんが、株価が上がる前に低い株価を前提にTOB価格を設定し、MBOを実施したとすると低コストで上場廃止を実現し、その後行なう新規事業での収益を全て会社側で享受することが出来ます。これは情報の非対称性から生じる問題です。この問題が存在する限りにおいて、株価が企業の価値を正しく反映し完全にシグナリング効果を発揮することは難しいと言えます。市場における大きな問題の2つのうちのひとつです。(もうひとつは契約の不完備性です。また、機会があればご説明致します。)

大学院の授業の中で、このような議論をしています。また、面白い内容の授業があれば、書いて見ます。