⑥ M&Aの必要性と法的整備(新会社法の意義)

 ・銀行業界での東京三菱銀行三井住友銀行によるUFJ銀行の合併問題が日本国内でのM&Aに対する国民的な関心と議論を高めた象徴的な事件だったと思われる。その後、ライブドア楽天など新興IT企業による既存大手メディアの買収劇や、最近では製紙業界での買収騒動や、紳士服業界でのフタタに対するTOB競争など、日本もM&Aが盛んに行われるようになり始めている。これは小泉政権改革のひとつであり、商法改正、会社法改正の成果であると思われるが、これは日本経済にとって良い事なのだろうかと言う疑問は根強いものがあるのは事実である。また、経済の国際化が進む現代においては、M&Aの拡大は不可避な事なのであろうか?

 経済学的な視点からも、この流れには疑問符が打たれる部分が少なからずある。つまり、経済学の世界での理論として、銀行主導の間接金融が中心の国や地域と、証券市場優先の直接金融が中心の国や地域との資金調達の方法に違いが生じるのは、資金の貸し手側の弱者保護に関する法律的制度体系のあり方によるとなっている。つまり、米国や英国などに直接金融中心の国は、弱い投資家保護の法律が整備されている。なので、多くの投資家が株式市場に参加しようとして市場参加者が厚い層を構成するのである。一方、日本やドイツなどは米国や英国に比較した場合、弱い投資家の保護に積極的ではなかった。これは特に、そのこと自体を良い悪いと言うものではないが、その結果として直接市場が資金配分の中心的市場として確立しなかったという理論である。

 また、米国や英国でM&Aという手法が確立されたのは、資金の借り手への規律付けの方法として株式市場を通じたM&Aという手法が市場に浸透していったという側面があるとされる。逆に、日本やドイツでは銀行などの債権者による規律付けが中心となったと言う事である。この理論に基づくと、日本でM&Aが活発になると言う事は、弱い投資家の保護という観点から会社法改正が行われたのかどうかと言う事が論点となる。市場構造の成立は法体系に基づいて形成されると言う仮説があるが、結果としてM&Aという市場規律の手法が定着した米国に比べて、M&Aという結果ありきの法律を導入した事は、今後日本経済にどのような影響を及ぼすのであろうか?まだ、確実な答えが出ている訳では無いが、今回の法改正が結果的に日本経済に悪影響を及ぼす可能性も十分にある。今後、今回の法改正の結果、日本経済や日本社会に何が起こるのかをしっかりと注視する必要があると思われる。