G会議(1/2)

先週は海外製造工場のトップ(中国、台湾工場の総経理等)が終結して、グローバル会議が日本で開かれてました。

自分はその事前準備や、議事録、雑用(パシリ)等を中心にお手伝いをしており、夜は食事会等で忙しく、ブログ更新が滞っていました。。しかし、複数の海外生産拠点のトップが集まり、さらに日本の開発、製造などの部長の集結した会議は、なかなか良い勉強になりました。

あまり詳細に内容は文字数の制限上等から書けませんが、会議で出た内容のうち一般的な論点について、ちょっと書きたいと思います。まず、今後の中国を生産拠点として考える上では、様々なリスクがあることを再認識いたしました。


1.まずは、中国ビジネスをする企業なら誰もが気が気でない、元の為替レートの切り上げです。ドルとのリンク離脱後から順調にほぼ一定のペースで元高は進行しています。これが07年、08年も続いていくのかが、弊社に限らず中国に生産拠点を持つ多くの製造業等の会社にとっての大きな関心事となっていると思います。

まだ議論の最中で何も決まった事はありませんが、弊社の場合は今後も元高は進んでいくのではないかとリスク想定を行い考えています。この為替リスクをどのように、こなしていくかがひとつめの論点です。

また、現地で獲得した元資金についても、その運用が今後さらに問題となってきます。切り上げが継続する可能性を考えれば、元のままで、中国の銀行に預金として持っておくというのも手ですが、信頼性が高まってきているとはいえ中国には預金封鎖等のリスクも考えないわけにはいかず、判断が難しい所です。

純粋な投機目的として、機動的に運用しているファンドなどは、それらリスクをうまくこなすノウハウや情報を持っているのに対し、投機を本業としない企業が運用として元投資を行うと痛い目に合いそうで怖いところです。

MBO(3/3)

  3つ目の投資ファンド側は、このMBO案件に投資すべきか?と言う事ですが、この投資ファンドの目的が何処にあるのかによります。投資ファンドがM&Aに参加する目的を大きく分けると2つに分類できます。1つ目は、グリーンメーラー的な買収⇒解体売却の目的です。2つ目は、投資先の会社に経営陣などを派遣し、経営を再建し、株価の上昇によるキャピタルゲイン(または、再上場によるキャピタルゲイン)を得る目的です。MBOの場合は、基本的に後者の考え方に基づき、企業再生が目的の軸になります。今回の案件は、MBO対象会社の純資産が低く、PBR(株価純資産倍率)が1を下回っていると言う会社が対象でしたので、基本的に解体価値は低く後者を追及するしか手はなかったようです。そこで投資会社側が取ろうとした手段は、該当投資会社の出資に対して約4、5倍の借入金を行い大幅なレバレッジをかける事による収益性の向上を図ると言う手法でした。もちろんこれにはリスクが伴いますが、基本的にそのリスクを全面的に負うのはあくまでも会社側であり、ファンド側は出資額までが最大リスクとなります。ですので、多額の借入金によるレバレッジの増大によって実現される収益性の拡大というフレームワークを該当会社側が受け入れた場合には、投資会社としても非常にメリットのある話となる可能性があります。結果的に、高レバレッジをかけると言うフレームワークによるMBOと言う事になりました。


  4つ目には既存の株主にはどのような影響があるかと言う点です。ここには非常に重要な問題があります。情報の非対称性の問題です。企業を取り巻くステークホルダーは様々です。例えば、従業員、顧客、経営者、株主、サプライヤー、クイーン、地域社会などです。これをもう少し詳しく見ると、株主の中には、経営者の同族などもいるでしょう。しかし、外国人投資家や、個人投資家などもいます。前者と後者の一番大きな違いは情報量です。経営者やその周辺の人々は多くのインサイダー情報を持っています。一方、個人投資家などは公開情報だけが頼りです。これの何が問題なのでしょうか?例えば、こういうケースを考えて下さい。ここ数年の業績が低迷気味の上場企業D社があったとします。しかし、実は近い将来に収益性の高い新規事業に乗り出す計画があり、この成功可能性も高かったと仮定します。そして、仮にこの情報を持っているのは、一部の経営者やその周辺だけだったとします。その場合に、上場しているとそこで得た収益は配当と言う形で株主に還元しなければいけませんが、株価が上がる前に低い株価を前提にTOB価格を設定し、MBOを実施したとすると低コストで上場廃止を実現し、その後行なう新規事業での収益を全て会社側で享受することが出来ます。これは情報の非対称性から生じる問題です。この問題が存在する限りにおいて、株価が企業の価値を正しく反映し完全にシグナリング効果を発揮することは難しいと言えます。市場における大きな問題の2つのうちのひとつです。(もうひとつは契約の不完備性です。また、機会があればご説明致します。)

大学院の授業の中で、このような議論をしています。また、面白い内容の授業があれば、書いて見ます。

大学院の授業内容(M&A関連)

今週は、グローバル会議と称して海外工場(と言っても、中国と台湾)から、総経理(≒社長)や経理(≒副社長)、副理(≒経理部長)などが終結し、2日間に渡り、海外工場の戦略について議論されました。私は、パシリとして事前準備や、会場設定、食事会等の準備などを、お手伝いしておりました。また、MBOの話しの後に会議内容について簡単(一般的な情報のみ)に書きたいと思います。
  

では、本題です。↓

MBO(2/3) 

(1つ目の続き)
 
  このような場合には、MBO(≒上場廃止)という策は望ましいわけではないですが、1つの手段として考えられます。投資会社が間に入る事により資金調達が可能になり、新たな戦略的な投資が可能になります。また、四半期ごとの短期での結果を重視する必要が少なくなり、上場時よりも長期での戦略立案も可能になります。

  しかし、MBOを行なうにあたり発行済み株式を買い取る場合に、巨額の借入金を行なうケースもあります。今回のケースでは借入金を多く行なったケースでした。借入金を多くすると言う事によりレバレッジ効果が高まり収益性が向上するのですが、企業側としては負債の増加である事には違いありません。これは、苦境から一転して、良い結果を引き出すための劇薬的な効果があると言えます。ただ、結果的に中・長期的な戦略に基づき収益の向上が実現できた場合には、企業側も投資ファンド側もハッピーとなります。

  つまり、MBOを行なうかどうかは将来への明確な成長ビジョンと計画があるかどうかにかかっていると言えます。つまり、MBOに伴い借り入れた資金を確実に返済していける明確な計画が必要と言う事です。明確なビジョンと計画無しにMBOを実施する事は、悪い状況をさらに悪い方向へと導く可能性があります。この辺りの判断を楽観論に基づかずに行なえるかどうかが鍵なのだと思います。

  また、業績好調で内部留保も多くあり、買収回避のためにMBOを行い上場廃止に至ると言うケースもあります。


  2つ目の株価が割安か、割高か?と言う問題があります。これは企業価値を算出して、一株あたりとして適正な株価が形成されているかどうかと言う事が問題になります。企業価値の算出法としては様々ありますが、DCF(ディスカウントキャッシュフロー)法が一番オーソドックスです。これは、簡単に言うと将来の期待収益をFCFに直して割引率で割り引いて現在価値に直すというものです。ただ、この場合にFCF以外にもEBIT、EBIAT、EBIATDAと言った指標でも、考え方によれば代替出来る可能性はあります。

  他には、株価倍率法式や、もっと単純に一株あたり純資産から見るという事もひとつの考え方です。もちろん株価が割安であれば、MBOを実施するタイミングとしては悪くないと言えると思います。株価が収益力や保有資産に対して安いと、買収対象になることは考えられますし、MBOで株式を買い入れる時のコストも低く押さえられる可能性があります。もちろん買取価格はTOB時点での買取価格によりますが、そもそも市場での株価が割安な事はMBOを行なう環境としては悪くないと考えられます。

  逆に割高だった場合には、買収価格が高くつき、借り入れ負債の増加を招きます。そもそも借入金を増やす事はレバレッジの向上により、利益の出ている企業の場合は収益性は良くなる可能性がありますが、収益の良くない会社の借入金増加は、言うまでも無く倒産リスクの増大に直結します。なので、株高時はMBOのタイミングとしては難しい部分があります。また、株価が高いときは、買収リスクも低くなっており(今回のケースは違いますが)買収防衛目的としてのMBOのタイミングとしては必要性は低くなっていると考えられます。

R.Oさんのご意見に対して

10/29のM&Aの議論について、R.Oさんからのご意見について、改めて私の意見を追加して見ました。(下から1/3の部分)


R.O 『M&Aが必要かと問いかけられると風土の問題を置いておけばやはり必要ですかね。市場機能の命とも言われるアービトラージへとつながりますし、効率的な資金配分や、経営者への規律付けにもつながります。ノイズトレーダーの保護までは不要ですが、ご指摘の通り、弱い立場の投資家の保護は促進すべきですね。』


chewer 『>R.Oさんご意見、ありがとうございます。
>風土の問題を置いておけばやはり必要ですかね。
M&Aは必要だと言うご意見ですね。では、今後、海外企業やファンドからの三角合併が可能となる方向ですが、日本の名前の企業が海外資本(=外国人経営者⇒従業員は日本人)に買収される事は必要と言う意味も含んでしまいますよね。それは必要な事なのでしょうか?R.Oさんがおっしゃる通り、日本とアメリカは風土も違うけど、文化や、人間性など様々に違いがあり、協調してみんなで解決していくと言うのが日本の良い所なのではないでしょうか?それでも、やっぱりM&Aと言う方法論は必要なのでしょうか?日本の企業が復活するために他に良い方法は無いのでしょうか?

>ノイズトレーダーの保護までは不要ですが、ご指摘の通り、弱い立場の投資家の保護は促進すべきですね。』
ただ、現在の日本の株高は外国からの投資とネット投資を背景にした国内での個人投資の増大があると思います。そういう意味では、個人投資家はある意味ノイズトレーダーに定義されると思いますが、保護する必要は無いのでしょうか?もしも、個人投資家の保護が無ければ、個人の株式市場離れが進んで、せっかくの株高も水の泡となってしまいませんでしょうか?ちょっと対立的な意見になってしまいましたが、R.Oさんの主張には、一般的にこのような反論があると思います。もし良ければ、また、ご意見下さい。』


R.O 『こんばんは。日本の企業が復活するためにM&Aの他に良い方法は無いかという質問に対してですが、なかなか難しいですね。市場の効率性だけを机上の理論で考えればM&Aは有効だと思うのですが、文化・風土等机上の理論で解決しきれない所は実際かなり多いですからね。このあたりの折衷策を考えられるがどうかが今後、M&Aが更に普及するかのポイントでしょうね。chewer さん、なにか名案をお持ちでしたらお願いします。ノイズトレーダーの定義ですが、個人投資家を指す言葉ではありません。ファンタメンタルズ価格を理解せず、投資する投資家をさします。 (もちろん含意としてはありますが。chewer さんもご存知なのは承知してます。)保護の不要なのは例えば村上ファンドが買ったから自分も買うようなノイズトレーダーのキャピタルでの損益を想定して言っております。彼らが市場で淘汰されるのは市場の原理といえると思います。ただ、彼らが権利確定日に株式を所有していた場合は当然、権利関係で不利にならないように保護するのはいうまでもありません。』


>R.Oさん 専門家?!のご意見、もっと聞かせて下さい!
R.Oさんのご指摘に対して、自分なりの意見をさくっと書いて見ました。ご参考ください。

M&Aにおける投資効率の問題と、人生のレベルでの人の心や生活の問題との間では確かに落としどころが難しいですね。と言うか、まさに日本においてM&Aが普及するかどうかの最重要論点なのだと思います。事実、M&Aの本場のアメリカにおいても、1980年代の多くのM&Aにおいて弊害は多く指摘されています。
M&Aによりオーナーが代わり、上司も代わり、自分の配置も変化するような事があれば、通常の多くのサラリーマンなら程度の差こそあれ「自分は会社の一コマに過ぎないのではないか?」と言う疑問を更に増大させる事となりそうです。
・しかし、M&Aにおいて最も重要なのは、従業員への規律付けではなく経営者への規律付けだと考えられていると思います。経営資源の不効率な運営を行なう経営者は市場から退場してもらう事が、従業員や取引先、市場全体にも効果があると考えられていると思います。ので、M&Aが多くの従業員にとっては、直接的に悪い事ではないと言うことを認知してもらう必要があるのかもしれません。
・しかし、M&A直後のリストラ実施などを考えるとM&Aが悪い事ではないと言い切るのは難しいのは事実ですね。ポイントは、M&Aの効果を生かしつつ、その副作用を極力押さえると言う事なのかなと思います。M&Aにより職を失った勤勉な従業員たちの労働市場への回帰を政策として支えていく事が必要なのかなと言う気がします。
・結果的に、M&Aに肯定的な意見になってきました。。
・ただ、会社で経営企画の立場にいる人や、金融機関等でM&Aを担当する人なら感じていると思いますが、企業戦略としてM&Aは良い悪いに関わらず考えないわけには行かないのが現状なのだと思います。
・実務者としては、なかなかM&A反対を言い切れないのですが、研究者?の立場からは、M&Aの効果を認識しながらも弊害を指摘する視点を忘れないようにしたいと思います。
・他に、具体的な良い意見がありましたら、また、書き込み下さい。

MBO(1/3) 

 今日はM&Aの一形態であるLBOレバレッジドバイアウト=借り入れによるM&A)について、特に、MBO(マネジメントバイアウト)について少し書いてみます。と言いますのも、昨日の大学院の授業で現実のMBO事例を取り上げたケース研究として分析・討論を行なったからです。議論内容のエッセンスだけでも書いてみようと思います。


  内容は、MBO実施前に立ち返ってMBOを実施すべきかどうかを理論的に、ファイナンス的に議論しようと言うものです。議論の軸として設問が4つありました。

 ①企業側(A社)はMBOを行なうべきだったか?
 ②A社の株価はMBOを行なうにあたり割安だったか?
 ③仲介投資ファンド側は、このMBO案件に投資すべきだったか?
 ④既存株主にとって、MBOはどういう意味を持つか?


  1つ目の設問の、MBOを実施した企業側はMBOを実施すべきだったかどうか?と言う事ですが、何%までの株を買い占めるかにもよりますが、大体の場合MBOを行なった場合には、株主構成が著しく偏るため、証券取引所規則(証取法かな?)により上場廃止となります。MBOの結果、上場廃止に至ると言う事をどのように捉えるかが論点の1つとして挙げられます。もちろん上場している事自体には、メリットとデメリットがあります。


  デメリットとしては、四半期決算対応、詳細な情報開示など上場企業には様々な制約があります。また、市場全体からの監視効果と言うものはあります。しかし、メリットとしては、上場していれば、まず信用に繋がりますし、宣伝効果もあります。社員確保や、取引の拡大などに効果があります。


一長一短と言ったところでしょうか?


  その企業がどういう状況にあるかにより上場廃止にも繋がるMBOを行なうべきかどうかは変わってきます。例えば、事業が芳しくなく打開策としての良い投資案件もないと言う状態なら、市場は見放して、株価は下落するでしょう。となると、買収リスクが高まると言った事だけでなく株価のシグナル効果として、取引を止める取引先なども出てくる可能性はあります。そうなると社債の発行や、借入金を行うにしても不利な条件でしか行なえずに、さらに苦しい状況に陥ってしまう可能性があります。


  このような場合には、MBO(≒上場廃止)という策は望ましいわけではないですが、1つの手段として考えられます。投資会社が間に入る事により資金調達が可能になり、新たな戦略的な投資が可能になります。また、四半期ごとの短期での結果を重視する必要が少なくなり、上場時よりも長期での戦略立案も可能になります。

⑦ 通貨戦略(2/2)

では、日本の円は国際通貨として認知される必要は無いのであろうか?また、そもそも国際通貨として流通させたいという意志はないのだろうか?実は1980年代後半から90年代にかけて円の国際化について非常に関心が高まり議論された事がある。特にアジア通貨危機を受けて発表された、宮沢構想などはその流れを汲んだものである。当時日本は、アジア域内の経済の安定化のために、また日本の域内でのプレゼンスの向上のために尽力し、その流れの中で円のアジアにおける流通の拡大を目指した。

しかし、1990年代以降の日本経済はバブル崩壊以降に混迷を極めた。100兆に及ぶ経済対策も経済の再活性化というレベルまでは達成できなかった。また、銀行の不良債権の処理など様々な国内問題の対応に追われ、アジアのリーダーどころではなくなり円の国際化という戦略も衰退をたどった。事実、アジア域内における円による決済取引は低下している。ただ、そもそも通貨の国際化を達成するには、その通貨流通のために資金供給量の増加による域内流動性の向上を担保する必要がある。それは国際的に安定して流通し続けていれば良いが、その信用を失った瞬間急激な通貨下落、激しいインフレを招く可能性も秘めている。それらデメリットも踏まえたうえで、円の国際化を考える必要がある。

さらに、ドルとユーロという2大国際通貨の行方に対する冷静な予測と事前の対策が必要である。さらに付け加えると、今後、中国共産党による通貨政策として「元」 の流動性が高まる政策が実施されていった場合、円の立場はどうなっていくのかなども出来る限りの分析を行い、複数の通貨政策メニューを用意しておく事も重要でないかと思われる。